われから(2/13)わたしから
(二) 机はどこにでもある白木製で、そこに白い木綿布をかけ、百貨店のペン立てに中国の晋から唐までの楷書体手本の小冊子とか、リス毛の書道筆とか、ペンとかナイフとかも一緒に入れて、首の欠けた亀の子型の水入れに赤インクの瓶がひしめいて、歯磨きの箱がオレもと領土を主張して割拠状態にある、その机に体重をかけて洋書を開いている。年齢ははたち位で三まではいかない、五分刈りの丸い頭で顔は長くなく角ばってもいない、眉は濃くて眼は黒目がちだ。全体に男前のほうなんだけどいかんせんダサい。ゴボウと呼ばれるその根のように細い縦の縞模様のワタを入れた半天に何も考えのない白い木綿の帯、青い毛布を膝に置いて、前傾姿勢になって両手で頭をしっかとおさえている。 奥様は無言でビスケットを机の上にのせた。おまえ夜更かしをするならするようにして、寒さしのぎをしておいたら良いのに、湯沸かしは水になって、火といったらホタルの火のような、よくこれで寒くないねえ、余計なお世話だけど私が熾してやりましょう、炭取りカゴをここへ。 学生は恐縮して、いつも無精をいたしております、申し訳のないことで、と有難いながらも戸惑って籠を差し出すと、みずからは中皿に桃を盛った姿で「これは私の趣味なの」と炭を入れはじめた。 自己満足でもある好意のしるしで蛍火を慎重に挟み上げて、積み立てた炭の上に載せ、近くの新聞を三回四回と折って、隅の方からそよそよとあおいだ。いつしか火はこれからそれへと移って、パチパチと勢いよく響く。青い炎がひらひらと燃えて、火鉢の縁は少し熱くなった。夫人は何か仕事をしたかのように「千葉もあたって」と少し押しやって、今夜は特に寒いですよね、と言って指輪の輝く白い指先を、藤の蔓で編まれた、火鉢のふちのところにかけたのだ。 学生千葉はさらに恐縮して、これはどうも、これは、と頭を下げるだけであった。実家にいた時期には姉という人が母親の代わりに面倒を見てくれた、その頃その時を思い出して、そもそも奥様の派手なつくりと田舎者の姉上と、似たところなど一切ないけれど、高校の試験前に徹夜を続けていた時にはこんな事を言って、こんな仕草をして、さらには蕎麦がきをつくってくれて、あったまりなさいと言ってくれたこともあった。懐かしいのはその昔で、有難いのは今の奥様の思いやりだと、普段から世話になっていることもあって、張り気味の肩も縮ま...