にごりえ、八《エピローグ》
八《エピローグ》

精霊祭が終わって数日、まだ盆提灯の影のどこか寂しい頃、新開地を出た棺が二つある。一つは籠で、一つは二人担ぎで、籠は菊の井の別棟からひそひそと出た。大通りで見る人がささやく。
あの娘もまったく運が悪い、詰まらん奴に見込まれてかわいそうなことをした、と言う。
いや、あれは納得していたと言いますよ、あの日の夕暮れに二人が立ち話をしていたという確かな証人もございます、女ものぼせていた男のことだから義理にせまってやったのでしょうと言う者もいる。
そんな、あのあまが義理立てを知るかよ、銭湯の帰りに男に会ったから、さすがに振り切って逃げることもできず、一緒に歩いて話はしてもいたろうけど、斬られたのは後ろから、頬先のかすり傷、首筋の突き傷とか色々あるけど、確かに逃げるところをやられたのに違いない、反対に男は見事な切腹、布団屋の頃からそれほどの男とは思わなかったがあれこそは死に華、立派に見えたと言う。
何にしても菊の井は大損害だろう、あの娘には良いパトロンがついたはずで、とり逃がしては残念だろうと他人の悲哀を冗談に思う者もいる。
諸説が乱れてとりとめのないことだが、気持はのこる。人魂か何かはわからない筋を引く光る物が、お寺の山という小高い場所から、時おり飛んでいるのを見た者がいたそうである。
(にごりえ、完)
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